1つの商売に2つのルール
国会で消費者金融業の、いわゆる「グレーゾーン金利」について議論が行われています。
大雑把にいうと、これまで1つの商売なのに、出資法と利息制限法という、別々の法律が、上限金利を29%と20%にそれぞれ定めていました。
そのため、あいまいな金利がつけられ、借り手を追い込み、苦しめていたので、それを明確に(実際は引き下げに)しようとしています。
自民党はいったん、特例措置で25%の真ん中の金利にして、業界の激変を緩和しようと(実際は業界の陳情を受けて)、試みましたが、消費者団体や被害者の会が猛反対し、結局最低の20%に修正しつつあります。
同時に、十一(といち。10日で10%の金利がつく)、十三(10日で30%!)などの暴利をむさぼっていたヤミ金融業者には、罰則強化で締め出しを図ることも盛り込んで「貸金業法案」を作る見込みです。
借金は金利が怖い
普通の生活をしていれば、消費者金融などのお世話になることはないでしょうが、病気や怪我などの思わぬ出費、資金繰り悪化による経営難、連帯責任の保証人などで、仕方なく高い金利でも、借りざるを得ない人たちがいるのも事実です。
ギャンブルや使い込みなどの理由は論外でも、会社経営をしていると(私も含めて)、本当に一時的に資金が足りなくなる経験を、誰もが必ずします。
「そんなの借りなければいいではないか」と突き放すのは簡単ですが、世の中何があるか、予想はつかないものです。
そこに、この問題の難しさがあります。大手の消費者金融でも借りられない低所得者・多重債務者の場合、ヤミ金にいくしか手はありません。
十一といえば、100万円を借りたら、10日後に110万円。1ヵ月後に130万円を返さねばなりません。借金が怖いのは、この金利なのです。(低金利の住宅ローンでも、35年契約だと、結局借りた分の2倍くらい払うことになりますよね)
業界用語で「はめる」といいますが、いったん借金をした人は、なにかあるとまた借金をしやすくなるので、業者が名簿を回覧して、次々と誘いの手を伸ばしてきます。そして借金の返済を借金でまかなう泥沼に落ちていきます。(他の商品でも、リピーターを捉まえるのはマーケティングの基本ですね)
「下流喰い」
この実態をルポした「下流喰い」(須田慎一郎、ちくま新書)を読みました。
新宿・歌舞伎町で開催される「おんな市」。
借金を返せなくなった女性たち(とくにレディースローンなど。女性誌によく広告が出ていますね)が、風俗店のオーナーたちの前で裸になり、入札により買い取られていく様子が描かれています。
最近OLに流行の、ホストクラブにはまった人も、支払いが滞ると最後はこうなります。
まるで19世紀の奴隷市場のようですが、これが現代の東京で実際に行われているのです。男ならマグロ漁船か、山奥の建設現場行き。これ本当。
年間の自殺者3万人(交通事故は1万人弱)の理由の1つでもあります。
著者はこういいます。
「消費者金融は儲けすぎたのだ。借り手の年収以上を貸して、どうやって返すというのか」。つまり「借りすぎに注意しましょう。返済は計画的に」ではなくて、貸しすぎてはいけなかったのだ、と。
可愛い子犬のテレビCMなどに、ごまかされて、悲惨な現実を放りっぱなしにしてしまいました。堂々たる東証1部上場企業なのに。
せめて儲かったら、ビルゲイツやウォーレン=バフェットのように、高額な寄付などでもしていれば、これほどの批判はなかったかもしれません。
いすれにせよ、「需要あるところに供給あり」が資本主義です。
消費者金融業者を締め付けるだけでなく、こぼれていく人に救いを与えるなんらかの政策も必要になるでしょう。