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総選挙を大勝利に導いた、自民党の選挙広報とは その4

潮目を読む

権限と肩書きを獲得

そして8月、郵政民営化法案が参議院で否決され、総選挙が突然実施されることになりました。
広報責任者になったものの、世耕氏は当選2回の若手議員。そのままでは、ベテランがいうことを聞いてくれるとは思えません。
そこで、武部幹事長に直訴し、「幹事長補佐、広報本部長代理」という肩書きをもらい、党の実力者である幹事長の代わりに候補者や党職員に指令を出せる権限を手に入れます。
サラリーマンでもそうですが、どんな組織でも役職が権限を持ち、影響力を発揮します。
どんな良いことをいっても、ヒラ社員では実現ができません。
NTTという大企業出身の世耕氏は、ここを十分理解していました。

消費税アップの失言

広報PRについて、世耕氏の考え方は、こうでした。
「良いモノをもっと良く伝えることができる。悪いモノを良くすることはできないが、悪さを減らすことはできる」
テレビ番組で各党幹事長が討論したとき、テレビが得意でない武部幹事長はうっかり、消費税をアップすることに言及してしまいました。(本音だと思いますが)
小泉首相は、自分の任期中はありえない、といっているだけに大問題になりかねません。
念のため党職員をスタジオの外に待機させていた世耕氏は、これを聞いて即座に、番組中での訂正を、幹事長に指示します。また次のテレビ局に移動するとき、集まってきた記者たちにも、訂正を伝えてもらいました。
次の日の新聞などには、この消費税アップの発言が掲載されましたが、それほどマイナスの影響は広がりませんでした。「初期消火」がきいたのです。

八代英太氏公認問題

また、郵政民営化に反対していた八代議員に、公認を与えると報道されたとき、自民党には苦情が殺到しました。
「八代氏を公認するなら、自民党には投票しない」というのです。
その数は、田中真紀子氏が外務大臣を辞任したときと同じ、2千件にのぼりました。
「これは危険だ」と感じた世耕氏は、ただちに首相と幹事長に報告します。
すでに水面下で公認の内約束を交わしていたのですが、この報告を聞いて、幹事長は公認をあきらめました。

支持率が落ちていく

選挙に世論調査はつきものですが、その結果は大きな影響を持ちます。
企業でいえば、市場調査によるブランドイメージと同じですね。マスコミ、ネットの発達によって、情報の伝達速度は速くなる一方で、腫れ物に触るような慎重な対応が必要になっています。
8月8日に総選挙が決まったとき、自民党の支持率は大きくアップしましたが、有権者が冷静になるにつれ、郵政問題と年金など社会保障問題が同じくらいの関心度になりました。
「郵政だけでは、戦えないかもしれない」と危機感を覚えた世耕氏は、社会保障についても民主党への対案の準備を指示しました。
31日の公示日に小泉首相が表に出るようになり、テレビ番組にも登場したことで、選挙の争点は再び郵政民営化一本になり、支持率も復活したので、結局杞憂に終わりましたが、裏でしっかり準備はしていたのでした。
またネット選挙に熱心だった民主党に打撃を与えるため、世耕氏は、総務省に「選挙中のネット利用は違法だ」と申し入れ、利用をやめさせます。(現在は、もっと選挙でもネットを活用できるようにすべきだ、と法案改正を働きかけているというので、このあたりしたたかですね)

潮目を読む

生モノである、世論調査、選挙においては、登場人物の一挙手一投足が注目を浴び、有権者の心理に影響を及ぼします。これはビジネスでも同じことです。
最近では、ソニーがブランドイメージの低下に悩んでいることは代表例でしょう。
そんなものは捉えどころがない、と思いがちですが、地道な作業・準備をしっかり行い、臨機応変に潮目を読みながら、的確な手をうっていくことは、企業にとっても、大変重要な、存続を左右しかねないほどの作業といえます。

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