王子製紙による北越製紙の敵対的TOB(株式公開買い付け)は、逆に王子が追い込まれています。
つらつらと、理由を考えてみました。
どうも図式の描き方を間違ったような気がします。
マスコミ的に見ると、業界の盟主・巨大企業の王子が、地方企業で小さいながらに自力で頑張ってきた北越を、資本の力で、強引に分捕ってしまおう、とみなされてしまっています。
90年代終わりに、外資ファンドが、体力の弱った金融機関を二束三文で買い取った「ハイエナファンド」に近いような、強者が弱者をいじめて得をしようとしている、悪いイメージになってしまったようです。
周辺を敵に回した
モルガンスタンレー証券でM&Aを手がけてきた知人は、「王子製紙の経営統合提案 は、恐らく北越製紙が買収防衛策を出してきたことで相当あせって作ったのか、妙に高飛車だったり腰が引けていたりで、かなりの突貫工事ぶりが見て取れる」といいます。
TOBは買収提案の可否を、被買収側の株主の判断にゆだねる。つまり、
「今より高い値段で、あなたの持っている株を買うから、私にその株を売ってちょうだいよ」というものです。
そのため、市場で毎日売買されている浮動株を買ったり、現在まとまった株を保有している地元銀行などに働きかけました。
しかし、色よい返事をもらうことができず、三菱商事に加え、ライバルの日本製紙まで株式獲得競争に乗り出し、TOB成功に必要な株式数を取得できなくなりました。
とくにまずかったのは、北越の経営者だけでなく、その社員や地元、つまり周辺まで敵に回してしまったことです。
王子製紙のプレスリリースより
「北越製紙は、従業員の士気低下や地域社会に影響を及ぼすことを主張していますが、弊社は従業員の皆様や地域の皆様に不安を与えるような統合はいたしません」
もしそうだとするなら、統合したら、それによる企業価値の向上の分配が従業員や地域にあることを具体的に伝えなければなりませんでした。
たとえば、従業員には、給料が上がるとか、福利厚生がよくなるとか。
地元には、雇用が新たに生まれるとか、税金がもっと落ちて財政に寄与するとか。
買収しても、ほとんどの従業員はそのまま働くわけですから、その不安を解消する必要があります。
また、新潟の工場もそのまま稼動するわけですから、もっと資本を投下して、よりよい工場にする予定だ、とかのプランを提示することが必要です。
TOBは株式の取り合いなので、どうしても株をたくさん持っている人に直接、説得をしがちですが、日本の場合、「企業は人なり」、「会社は社員のモノ」、の色合いが強く、欧米式のデジタル思考(高ければ売ってしまおう)にはなりにくいのです。
大株主もこうした人たちの考え、感情に大きく左右されがちです。
机上の論理で考えると、単なる数字のやり取りになりがちですが、企業は、経営者と株主だけでなく、多くのステークホルダー(利害関係者)によって成り立っています。
企業を支える周辺の部分を説得できなかったことが、今回の失敗の原因にあるような気がします。
むしろ、外堀を先に埋めて、「北越の経営者が自分たちの利益だけを考え、株式を売ろうとしない」という図式を描くべきでした。
そうなれば、正義は王子にあることになったでしょう。
かつては国策会社=伝統的日本企業、であったにもかかわらず、王子には、深く広く、北越を俯瞰する柔らかな発想、そしてしたたかさが欠けていたようです。
どうする?王子
あと、王子にできるのは、TOBの設定期間を延ばすとか、TOB価格を上げるとか、取得株式数を50%超から35%程度に減らして、北越を上場廃止に追い込む、などがあります。
東証の規定により、上位10社の大株主で株式保有率が75%を超えると、上場廃止になるのです。
上場廃止になると、自然と株式保有をやめるところが出てくるので、それを買い占めるわけです。
とはいえ、北越も、買収防衛策を出してくるでしょうから、絶対とはいえません。
さて、王子の打開策や、いかに。