PDCAサイクルをPRに活用する
小泉首相は乗り気せず
森政権では間に合わなかったので、世耕氏は、小泉首相になってから、チャンスを虎視眈々とうかがっていました。平成13年に国家戦略本部が設置され、また田中真紀子外相が更迭され内閣支持率が下がったのを機に、小泉首相に広報機能の強化を繰り返し提言します。
しかし、返事は「政治は、覚悟と決断と信念だ」。あっさり却下されます。
ちなみに、首相は、自分をコミュニケーションの天才と思っているそうで、下のスタッフはやりづらいそうです。総選挙のポスター・コピー「改革を止めるな」も本人が考えたとか。否定形はよくない、と大手広告代理店は反対したそうです。
テレビドラマ「ホワイトハウス」が理想
世耕氏が念頭においていたのは、NHKテレビで放送の、アメリカのテレビドラマ「ホワイトハウス」にありました。
あのドラマは、大統領と、その側近、とくに広報を担当する部署が主役です。「報道官」という日本にない役職や、広報関係者がいかに神経をすり減らして、難問にあたり、時には裏技もつかいながら、大統領を守っている姿が描かれています。(日本では、大臣格の官房長官が定例会見をするくらい)
PDCAサイクルを広報に適用
データを重視すべき、きめ細かな情報収集をして、その課題にひとつひとつ対応して具体的に解決していくことが大事だ、という考えの世耕氏は、民間企業の経営、とくに営業では当たり前のPDCAサイクルを、広報に持ち込もうとしました。
PLAN−DO−CHECK−ACTION、という循環を、大きなテーマから小さなテーマまで設定し、それぞれに繰り返し、ステップアップを図るやりかたです。
とはいえ、首相が聞いてくれないので(参照:このメルマガ9月13日号「他人の話を聞かない」)、首相官邸ではなく、自民党のほうで取り組みを目指します。
当時の安倍幹事長(民間企業出身)に、戦略的広報改革部会を作ってもらい、党全体の改革の中に位置づけ、実行をしていくことにしました。
広報の専門家といっても、当選2回の若手議員ではなかなか話を聞いてくれる人もいません。
上司の選択、組織的なテーマに乗ること、などビジネスマンにも参考になりそうな話です。
縦割りをなくす
なんとか着手にこぎつけた世耕氏は、「コミュニケーション戦略会議」を立ち上げ、党内の関係職員を15人集めます。政治家は議論ばかりで話が進まないので、あえてはずしたそうです(わかるような気がします。笑)
その目的は、縦割りでバラバラに、ろくに連携もなく進めていた、党内の情報収集と情報発信を、ひとまとめにして、自民党として一貫性を持たせることでした。
しかし、改革に対しては、議員よりも既得権益を死守したい党職員の抵抗が強く、これがまた大変な作業になっていきます。