社長コラム

ライブドア・ショック その1

ライブドア・ショック

東京地検の動きとは?

東京地検特捜部とは、いうまでもなく、東京地方検察庁の特別捜査部の略です。
ここが「風説の流布」などの疑いでライブドアの査察に入ったと聞いたとき、まず頭に浮かんだのは、「?」でした。
なぜなら、これまで東京地検特捜部が動くのは、よほどの問題であり、そののち大事件に発展していったものばかりであるからです。ロッキード事件などは典型でしょう。
「法の番人の最後の砦」などといわれてきたゆえんです。
また特徴として、「一罰百戒」があり、わかりやすい1つの例を大きく厳しく取り締まることで、他の似たようなケースに抑えを効かせることを狙ってきます。
東京証券取引所や金融庁など監督官庁がこれまでライブドアについては、まったく直接的には動いていないのに(苦々しくは思っていたでしょうが・・・)、いきなり特捜部が動いたことに、私は強く違和感を覚えました。
そう簡単に動く連中ではないのです。
「何かもっと奥にあるに違いない。特捜部はそこまでの確信をつかんでいて、捜査令状をとるために、風説の流布などを口実にしたに過ぎないのではないか?」と感じました。
案の定、すぐに粉飾決算の疑いが出始めています。もっと他にもあるのだと思います。

IRの手法

ライブドアは、100分割などを繰り返して、合計1万分割という、IR史上例を見ない大幅な株式分割をしてきました。
ワンコイン(500円)で株式を買えるという安さまで株価を引き下げたのは画期的であり、「貯蓄から投資へ」という時代の流れの中で、個人投資家のすそ野が広がるのに一役買ったことは間違いないでしょう。
同時に、株式分割をすると、新株が発行され流通するまで2ヶ月間のタイムラグができるので、品薄間から急騰しやすいというのも、デイトレーダーの間ではよく知られていました。
IPO(新規株式上場)が増え、とくにIT企業が高値でもてはやされていくうち、これは「常識」になっていました。
ライブドアはこの流行(?)をとらえ、関連の法律をよく研究した上で、大幅分割を実行したのでしょう。
ニッポン放送株を取得した、時間外取引もそうですが、非常によく金融を勉強しています。
法律の脇の甘さ、未熟な日本の株式市場が想定していない部分について、その間隙をぬって、大胆に打って出たともいえます。
いずれも違法ではなく、ベンチャー企業ならではの斬新な姿勢でした。
それだけに、監督官庁も「うーむ」とおそらくうなりながらも、とくに責めようとはしませんでした。
むしろ他の上場企業は「そういう手もあったのか!」と気づかされた面があったと思います。
その後大幅分割を真似した企業がいくつかあったのを見ても、それはよくわかります。
IRにおいて、ライブドアは画期的でした。(ただその目的が、今取りざたされている、買収手段の拡大=時価総額のかさ上げであったら、残念ですが)
多くの、とくに大企業はIRにおいて、いまだかなり保守的であり、決算を報告すればいい、株主へはエクスキューズとして適当なレポートを送っておけばいい、株式取引単位を下げると株主数が増えるので事務手続きが面倒になる、といった姿勢が多く見られます。
こうした旧態依然、ぬるま湯の企業に、ライブドアは緊張感と刺激を与える役割を果たしたといえるでしょう。
株式市況についていえば、昨年後半に急激な値上がりをみせ、「1−3月期は調整局面になるだろう」と判断していたとき、どんぴしゃりの絶好の下げ材料になりました。
もてはやされていたIT企業・ヒルズ族への不信感が一度に噴出したこともあり、しばらく株式市況は調整(下がることはあっても、なかなか上がらない)が続くでしょう。
春には、日銀による量的緩和策の解除(つまり長期金利の上昇)が見込まれているだけに、年初に評論家たちが予想した、今年中に「日経平均株価2万円到達」の夢は遠のいてしまったかもしれません。

PR手法

PRにおいても、ライブドアはユニークでした。マスコミの利用法を非常によく知っているといってよいでしょう。
堀江社長がテレビに多数出演したり、本を数多く出版したりしたのは、マスコミのパワーをよく理解しており、自らタレント化して、企業価値を高めようとしたのだと推測します。
いわゆる「PI」(トップによる広報)であり、その効果は絶大でした。
広告費用に換算したら、それこそばく大な金額になるはずです。
たとえば厳しい交渉の場に堀江社長がでてくることで、相手には無言のプレッシャーになったでしょうし、そうでない場合買収先の社員には安心感もでたはずです。
堀江社長がメディアに出れば出るほど、多くの買収や提携の案件が持ち込まれたのは、想像に難くありません。
財務畑出身、BtoB企業の社長などによくみかける、あまり「広告塔」の役割を認識していないトップには、見習って欲しい面があります。表になかなか出たがらないトップに苦労している広報マンからすれば、うらやましい限りの社長です。
また、偶然の産物(これもマスコミのパワー)ですが、「美人広報」という名をつけられ、写真集までだした乙部綾子さんの活躍がありました。
以前このメルマガでもご本人から直接伺ったお話を紹介しましたが、「売り上げを義務付けられ、3ヶ月ごとに給与が上下する広報担当者」というのも画期的でした。
最近華々しく取り上げられることが多く、学生の間では人気職種のひとつになっているPR担当ですが、もともとはバックヤードの部署であり、売り上げにタッチしたり、マスコミの表にでることはありえませんでした。
いってみれば、営業的に見れば脇役だった広報担当のイメージを打ち破った功績はあると思います。元アイドルを広報に起用していたとの話もでましたが、これも話題性を計算しているはずです。
ただ、先週のテレビのインタビューを見る限り、今回の件について、彼女は、「堀江はまっすぐな人なので、信じています」といった程度のコメントしか出していませんでした。
このあたり、経営の核心部分にはまったくタッチしていなかった、戦略的広報ではなかった、ということがわかってしまいましたし、これだけ積極的な経営手法を用いながら(言い換えると、危うい)、リスクマネジメント(危機管理)広報をまったく準備していなかったのがよくわかります。

ソフトバンク、アスキーとの比較

危うい、といえば、ライブドアは、かつて時代の寵児であった、アスキーとの共通点を見出すことができます。
アスキーの西社長は「パソコンの天才」といわれ、同年輩のソフトバンク・孫社長となにかにつけ、ライバル視されました。
しかし、20−30代の若者だけで経営を続け、映画会社での失敗などで、いつのまにか消えていってしまいました。西社長も経営者ではなくなっています。
そこにあったのは、勢いだけに頼る暴走であり、身内だけの論理、経験不足、甘いリスク管理でした。
一方で、ソフトバンクはいまだIT企業の先頭ランナーとして、走り続けています。
その理由は孫社長が自分に足りない点をよく自覚していたことにあると思います。
たとえば、シャープの佐々木顧問、NECの元会長など、財界の著名人に積極的に働きかけ、その庇護を受けました。生まれたてで、既得権益を侵すような革新的な経営をしようというとき、ベンチャーレベルでは、大企業が本気になってかかってきたら、ひとたまりもありません。
そこで、その防波堤、自分のかわりに好意的にソフトバンクを他人に説明をしてもらえる味方を作為的にどんどん作っていったのです。社長である自分の上に会長職を設け、大企業の名だたる人を次々にスカウトしてきました。
「ジジイ・キラー」として、孫社長は有名であり、これは、と思った人の誕生日に好物をプレゼントするなど、こまめな手もうっていました。
そうすることで、「やんちゃだが、将来性を期待させる経営者(つぶしてはいけない)」というイメージ、立場を創りあげていったのです。これらは、のちのちテレビ朝日の買収、ナスダック・ジャパンの設立などで、多くの反発を買い、存在基盤も危うくなったとき、相当な効果を発揮したはずです。
一方で、孫社長は、野村證券から北尾氏(現SBI社長などソフトバンク・グループの金融分野を束ねる)などをスカウトし、弱かった(北尾氏いわく、上場企業としての体をなしていなかった)財務部門をまっとうに建て直しさせます。
実務のプロを招いては、着実に組織力を高めていったといえるでしょう。
こうして、ソフトバンクは大胆でありながら、反面とても慎重にホケンをかけていたのでした。上場したばかりの新興企業には、ぜひよいお手本として見習って欲しいと思います。
ライブドアは、アスキーと同じ道をたどってしまうのでしょうか。

ライブドア・ショック その2

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