PRキーマンとの出会い

福井俊彦氏(日銀総裁)その2

日銀総裁の投資、私との接点

日本銀行の福井総裁が、村上ファンドに投資をしていた、個別企業の株式も保有していた、と国会で問題になっています。
日本の金融政策をつかさどる立場にある者が、自分の利益のために、政策を左右したのではないか?、広義のインサイダーに相当するのでは?、疑われるようなことをしたのが問題だ、といった理由のようです。

わたしはかつて「生保のカラクリ」(講談社)という本を書いたとき、当時、金融審議会部会長だった福井氏に、インタビューしたことがあります。
また、民間の立場から金融庁に物申す、というNPO[金融イノベーション会議]でも一緒でした。
インタビュー当時は、日銀の接待事件の責任をとる形で、副総裁を辞任し、富士通総研というシンクタンクの理事長をされていました。
印象は、「非常に頭の柔らかい人」。
日銀は半官半民(株式を誰でも買える、って知ってました?新聞に毎日株価が掲載されています)ながら、長年、財務省(旧大蔵省)の支配下にあり、官僚と同様の頭の固さで有名でしたが、若いころから英才教育を受けていたのに、まるで異端児のような柔軟性でした。

「日本の銀行は世界から10年遅れている。生保は20年遅い」
「世界市場に重要な地位を日本が占めるには、金融機関を甘やかせていけない。早く体質改善をして、競争力をつけてもらわなくては」
「生保の予定利率引き下げ、なんて、とんでもない。うかつに決まらないよう、審議会で目を光らせている」
などの言葉を覚えています。民間からたくさんのことを学ぼうという姿勢が明確であったと思います。
私が「生保はもっと情報公開を」「三利源の開示を」と本で主張したところ、「まったく同感である」と、励ましの手紙までいただきました。
(三利源の開示は今頃になって、やっと各社が始めている)
志は同じなのだ、と意を強くした記憶があります。

福井総裁の考え方

村上ファンドに投資したり、数社の社外取締役に就任して、その株式を購入したのも、同じころのようでした。
将来の総裁候補といわれながら挫折し、民間に下りながらも、勉強を怠らない、今だからできることを学ぼう、としていたのだと思います。
まだ学者だった竹中・総務大臣や、金融コンサルタントだった木村剛・日本振興銀行会長などと、NPOを立ち上げたのも、金融行政を外からみる目を養っていたのでしょう。若い人を応援したい、自由競争原理が大切、というポリシーを感じました。
日銀の給料は都銀並みで高く、まして、副総裁から天下りしていたら、年収数千万円はあったでしょうから、私腹を肥やそうとしていたとは、考えにくいです。また、その程度のちっぽけな人だとも思いません。
ようやく景気が回復してきて、日銀が量的緩和を解除し、まもなくゼロ金利の解除も、という歴史的に重要なところまできて、海外でもよく知られた福井総裁を辞めさせるのは、あまり得策ではありません。
さらなる株価の下落、日本の金融行政の信頼失墜につながり、海外からの投資現象、金融政策の混乱による景気回復スピードの遅れを招く恐れがあります。
そのあたりを考え、小泉首相、与謝野金融相は、かばうつもりのようです。

リスクマネジメントの不足、ルールの設定を

かといって、問題になった以上、放っておくわけにもいきません。
では、どうすればいいのでしょうか?
村上ファンドの解約を2月にした理由、株式の売買は自ら凍結した、という点に批判が集中しています。
そもそもの原因は、日銀に株式取引関連のルールがなく、また半官半民であるため、政治家のように選挙の洗礼を受けたり、資産公開の義務がないことにあります。
公務員でもなく、企業でもない、中途半端な立場がマイナスに作用しています。このあたり、自分の足で確固と立っておらず、ずっと大蔵省に頼りきっていた報いがでています。
ルールがないのだから、自分で判断していた、というでしょうし、他に計るものがありません。確かに、総裁に就任するとき、すべて精算すべきでした。
(初めて議員になるとき、大臣になるとき、政治家は「カネ」と「女性」を精算する。自民党はこれが上手)
数年前の日銀法改正まで、国会対策の部署さえなかった、マスコミの取材に記者会見以外、ほとんど応じない(広報=宣伝に近い意識のレベル)、などは、脇が甘い、閉鎖的、といわれても仕方ありません。
日銀記者クラブは、銀行・保険会社の発表場所として有名ですが、日銀そのもののは、十分にマスコミとの関係を構築していたともいえません。
この件を契機に、日銀のスタンスをはっきりさせ、ルールを設定することが大切でしょう。日銀の広報も、企業の広報を見習って、リスクマネジメントの準備をすべきです。こんなことで、総裁辞任になったら、企業の広報なら、クビが飛ぶところです。組織の問題として、捉えるべきでしょう。

余談ですが、「総裁」という偉そうな、時代遅れの呼び名も、ぼちぼち止めるべきかも。日銀の近代化を期待したいものです。

福井俊彦氏(日銀総裁)その1
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