PRキーマンとの出会い

廣瀬和彦氏(テレビ東京プロデューサー)

テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」

最近お会いした、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」(略称WBS)の廣瀬プロデューサーのお話をします。
ご存知のとおり、この番組は、ビジネスマンが帰宅したあとに見る、深夜の経済情報番組として高い評価を得ています。
テレビ東京は日本経済新聞の子会社ということもあって、WBSの歴代プロデューサーは、いずれも日経新聞記者出身であり、廣瀬さんも経済部などで活躍された方です。
前の持永さんは、日経時代、私と同じ部署の先輩で、直接教えていただいた関係です。(現在は「ガイアの夜明け」を担当)

どこに力を入れて制作しているか?

WBSが番組制作をする場合、どこにポイントをおいているか、をまず伺いました。
マスコミではよく「3つの感嘆詞」を大切にしろ、といいます。「おや?」「まあ!」「へえー」です。
この3つを見る人、読む人に言わせられれば、その番組や雑誌は合格、よく売れる、といいます。
感情に訴えるメディアであるテレビの場合、「まあ!」を一番重視し、ライブ感覚を伝えようとします。
しかし事件や事故と違って、経済ニュースに「まあ!」という驚きはそれほどあるわけではありません。
そのため、「へえー」、つまり意外性の指摘、掘り下げ、違う切り口などによって、ニュースを仕上げていくことを心がけているそうです。
たとえば、「Aという商品が売れている」というのは、普通のニュースですが、「それによって、どうなるのか?」を調べて、伝える工夫をします。
また身につまされるレベルまで、かみくだく必要もあります。「へえー」と納得するだけでなく、「ほおー」と感心してもらえるくらいまで。
たとえば、「税金がアップする」というのは、マクロ経済のストレートニュースですが、「視聴者にとって、どう関係してくるのか?」を詳しく、出演者のトークやフリップ(図表など)などを使って解説します。

テレビと新聞の違い

廣瀬さんいわく、「経済ニュースは、(起こる)ものではなく、(探す)もの。
毎日の考察や調査が大切になる」。一見、ニュースと思わないことでも、かまわない。
新聞が人,モノ、金のすべてを報道につぎ込んでいるのに比べ、テレビはエンターテイメントに重きを置くので、報道は全体から見れば一部でしかありません。
情報の一次ソースは、新聞や雑誌、ほかのテレビ番組などに頼らざるを得ないところがあります。
「新聞記者が漁師なら、テレビ制作者は、魚屋によい魚を見つけに行く料理人だ。新聞記者は、たとえ魚が釣れなくても、人数の多い分、誰かが釣っているので問題ないが、料理人であるテレビ制作者は、魚がないと料理が作れない」
また、新聞記者がワンマンプレーで企画から取材・執筆までこなし、生ネタを扱うのに比べ、テレビの場合、取材者の役割は小さく、カメラマン、MC(司会・ナレーション)、音響、など制作に携わる人間が多い分、表現にこだわり、より食べやすくなる、ともいわれました。

WBSの目標

経済情報番組であるWBSが目指すものは、同じ時間帯の他局の番組と違います。
「(役に立つ)(ためになる)情報を、月曜から土曜まで届けること」、にあると廣瀬さんはいいます。しかも、情緒的にならず、できるだけ客観的に、冷静に。
それもあって、すべての人を対象にした番組、すごいファン(視聴率)ではなく、一定以上のファンを獲得できればいい、という割りきりがコンセンサスになっているそうです。

WBSの今年のテーマ

一昨年は「中国」をテーマにしていました。
昨年は「資源(一次産品)」と、「知的財産」でした。
今年は、「消費」を中心にすえるとのことです。
もう少し具体的にいうと、少子化をきっかけに、これまでの年齢別・世代別マーケティングが無意味になり、階層化マーケティングが必要になっているという認識があります。
「こだわり」、「趣味」などがキーワードになり、人々の求めるものが、年齢を問わない「ageレス」になっています。一方で、細分化されてもIT技術の発展で補足できるため、縦割りでない、横串のマーケティングが可能になっています。
階層化マーケティングは、階級社会の残るヨーロッパ的でもありますが、その分、少子化とは関係なく進めていくことができます。
この従来と違う消費スタイルが進んでいく中で、新たな商品やサービスが次々と登場してくるのでは?とみているそうです。
中期的には、「メディア」をテーマに考えています。
メディア間競争が激しくなり、楽天、ライブドアなどに見られるように、ネット企業がパワーを持ち、メディアに進出しようとしています。
これまでのメディアは自らを語ることをしないできましたが、今後は、そうはいかなくなるとみています。

WBSへの売り込みは?

番組は40−50人のチームで制作されています。
番組に売り込みたいときは、「まずニュースリリースをFAXなどで、こまめに送ってほしい」(廣瀬氏)とのこと。電話は厳禁。
伊藤の経験からいっても、一度や二度、リリースを送ったところで、すぐに取り上げてもらえるほど、甘くはありません。
あまたの企業から、山のように資料が送られてくるのですから。即効性を期待せず、丹念に繰り返し、目にとめてもらえるのを待ちましょう。
一度取材にきてもらえば、シメたものです。次からは、期待さえされるようになるでしょう。
記者、ディレクターはシナリオを書くのが仕事です。
Aという出来事があったとき、「Bということが起きるだろう」と予想を立てて、それを取材したいのです。
優秀なPR・広報担当者とは、ある種推理ゲームのできる人で、取材者が「こんな資料をほしい」といってきたら、「あんなシナリオを書いているな」とイメージできる人です。
「このニュースをつけると、面白いネタになりますよ」などと、シナリオを予測して、フォローしてあげると大変喜ばれます。あくまで、さりげなく、ですが。

「トレンドたまご」

人気コーナーの「トレンドたまご」ですが、ここは、モノでもサービスでも取り上げます。
ただ、サービスは「絵になりにくい」=テレビにむかない、という難点はあります。
たとえ流行していなくても、考え付いた程度のレベルでも取り上げるので、気にせず紹介して欲しいとのことです。
また、取材申し込みを受けて感じるのは、取材して欲しいという割りに、こちらが取材したいことと、取り上げて欲しいことのギャップが大きいことだとか。
番組の趣旨や特徴を理解せずに、なんでも売りこんでも難しいということですね。